ひぐらしの記 連載『自分史・私』、10日目 父と母の言葉の裏に私は、降ってわいた大学受験を温かく見守り、応援していることを感じた。それに報いるためにも私は、(何がなんでも合格するんだ!)、という決意を固めた。 父が最初の危篤に陥ったのは、昭和34年の1月末の頃だった。父は家族、嫁い... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、9日目 二兄は、「八百弘商店」開店の第一報を東京からふるさとへ送った。 「決して、親には心配を掛けません。これからは食べ物関係の商売なら、食いっぱくれることはないと考えて、三人で八百屋を始めました」 手紙が届いた日、涙をためてかたわらで不安そうに... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、8日目 家族はあっと驚いて、働き場所のあてどなくも二兄は突然、内田村のわが家から単身(19歳)で、はるかかなたの東京へ飛び立った。上京後の二兄は、二か所ほど働き場所を変えたと言う。そののちは、発足したばかりの「警察予備隊」(のち保安隊、現在自衛隊)... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、7日目 内田村は熊本の県北部にあり、福岡と大分とに県境を分ける熊本県側に存在する。三国山とか国見山とか名のついた連山には、峠道が入り組んでいる。遠峯と里山に囲まれた内田村は盆地を成して、細切れの段々畑と狭隘な田園風景を見せている。村人の暮らしは農産... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、6日目 これから書く文章は、私の文章を読んでくださる人にとっては、またかと思われるものである。しかしながら文章を書くかぎり私は、いろんなところで繰り返し書かなければならない。理由の一つは、わが生涯における最大の悔恨事ゆえに書けば、常に詫びなければな... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、5日目 父・前田吾市は、明治18年2月10日、熊本県鹿本郡内田村に生まれた。父は、父親・彦三郎と母親・ミエの三番目の子どもであり、姉二人の次に一人息子(長男)として生まれている。父が生まれたところは、村内では小伏野集落と言った。しかしそこから移り、... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、4日目 うれしくて、わが生涯において決して消えない記憶がある。多くのきょうだいたちは、わが風貌や日常の動作にたいし、まるで示し合わせでもしたかのように、「しずよしが、いちばんおとっつあんに似ているよ」と、言っていた。ところが、身内にかぎらず隣近所の... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、3日目 鹿本郡内田村、六郷村、そして菊池郡城北村、すなわち三村合併にちなんで、公募から生まれた新しい村の名は「菊鹿村」と決まった。「菊鹿村」それは、菊池郡と鹿本郡から頭文字一字を抱き合わせたにすぎないものだった。だから、私の気分的には拍子抜けを被り... ひぐらしの記前田静良
ひぐらしの記 連載『自分史・私』、2日目 私の住まいは鎌倉市内にある、今泉台住宅地の中にある。とりわけ、山際の一隅にある。わが家を挟んだ住宅地の周回道路の先には、鎌倉の尾根を成す「円海山山系」が連ねている。この尾根は、通称「鎌倉アルプス」とも呼ばれている。ところがそれらの高名に恥じ... ひぐらしの記前田静良
前田静良 第84集 「ひぐらしの記」・十四歳 2022.12.10発行 第84集 「ひぐらしの記」・十四歳 前田静良著 2,000円 ISBN978-4-906933-94-5 収録作品 梅雨空模様の夜明け/人の世は... 前田静良前田静良随筆集図書案内