「おためごかし」

 十二月十五日(火曜日)、年の瀬は半ばにある。気象庁の予報どおり日本列島には、真冬並みの寒波が訪れている。北の地方の予報には普段の天気や気温に加えて、競い合うかのように積雪の高さが報じられている。それを聞くたびに私は、身震いをおぼえるところがある。もちろんこれだけでは相済まなくて私は、北の地方の人々の日暮らしに思いを馳せている。確かに、寝床の中でも私は、寒気を感じていた。すると、寝床に恋をして未練が残り、置き出しを渋っていた。それでも、置き出さなければならない。なぜなら、これこそ一日の始動をもたらす人の世のつらい習いである。
 私は渋々起き出して来て、いつもどおりにパソコンを起ち上げた。そして、これまた習性どおりに、配信ニュース項目を瞥見(べっけん)した。それらの中で、このニュースに目を留めた。
 【GoToトラベル 28日から1月11日まで全国で停止へ 首相表明】(産経新聞)。「政府が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、観光支援事業『Go To トラベル』について、年末から全国で一斉に一時停止する措置を決めた。これまでは事業の経済効果を重視して小出しで運用見直しを繰り返してきたが、年末年始の人の移動を抑えるため、より強いメッセージを出す必要があると判断した。後手後手に回った対応で内閣支持率も急落しており、菅義偉首相もようやく『引き締め』にかじを切った。」
 なんとこれは国の舵取りにあって迷走、すなわち「ごちゃ、ごちゃ」と、思えるニュースだった。もちろん私には、本格的な対策とは言えない、為政者のメンツと保身まみれの、「ねこだまし」みたいなものだった。
 『猫騙し』(相撲の立ち合いで、相手の目の前で両手を打ち合わせて相手を驚かす奇襲技)。
 いや、実際のところは「ねこだまし」とは言えそうにない。なぜなら、相手(国民)はまったく驚かずに、国の舵取りのバカさ加減に驚くばかりで、奇襲の効果はまったくない。そうであればこのことば、すなわち「おためごかし」が適当に思えている。
 『御為倒し』(表面は相手のためになると見せかけて、実は自分の利益をはかること)。
 わが下種の勘繰りでこう思うのは、もともとの年末年始休みと重ねるという、いい加減さである。
 寒い中の置き出しにあって、この先を書く価値はない。国の下手な舵取りには、気象のもたらす寒さを超えて、いっそう身が縮む思いにある。