戯 曲 集

MINOs著

 「海賊」「横笛」「アンナ」「Lady楊」の四つのドラマが収録されている。二八八ページの本である。
 カリブ海の海賊の首領キッドの物語「海賊」を始めとして、奥能登の山中の小道に夕暮が迫って、一人の僧が一夜の宿を探している。彼は一ノ谷の合戦の折に十六才の平敦盛を討った熊谷次郎直実(出家して蓮生)である。雪深い山中で彼が見たものは……「横笛」、女優アンナの恋の行方と彼女の恋人の大門の苦悩を描いた「アンナ」そして最後に、玄宗皇帝の寵姫楊貴妃の物語「Lady楊」、これらはすべて悲劇である。
 ここに著者のあとがきを記す。
 悲劇は難物である。はたして、現代に悲劇は存在するのかという疑問もある。そして、文章で表されたものが現実の悲劇に及ばない事は明らかである。それで、この集のタイトルも単に戯曲集とした。コメディーでないというほどの意味である。悲劇のあるなしは別として、例えばシェイクスピアの作り上げた怪物たちは、圧倒的な存在感で我々の心に迫ってくる。リア王しかり、マクベスしかり、ハムレットやオセロしかり、である。とすると、いわゆる悲劇とは怪物を作り上げる事なのか?それともソフォクレスのように、恐ろしい状況を綿密に暴いて見せる事なのか?
 それにしても怪物は……? まずは私自身が怪物となる事がその近道かも知れないと、ひょうたんのような頭をしたシェイクスピアの肖像をながめながら、日々考えている次第という作者は、近い将来、「海賊Ⅱ」の執筆を予告する。海賊キッドは実は死んでいない。奇跡的に脱出に成功してインドに渡るのである。(自費出版ジャーナル第20号)