本書はマイホーム建築、材木屋十五年、木造建築の管理・監督十一年のキャリアを持つ著者が、頑丈で快適なマイホームをめちゃ安で手に入れた自分の体験を通して、「めちゃ安マイホームづくり」を提言する。
建築のことは素人でわからないが、これからマイホームを新築・建替えしようと考えている人たち、既にマイホームを持っている人たちに、日本の住宅事情の現実をわかりやすく解説しながら、「めちゃ安マイホーム」は決して特別なものではなく、誰にでも実現できる身近なものである事を説いている。
しかし、誰にでも実現できるといってもこの「めち安マイホーム」を手に入れるには、手に入れる側の心構えが必要であることを筆者は力説する。この著書にはそのことが明確に書かれている。
なぜ日本の住宅事情が、「頑丈で快適なわが家づくり」を駄目にしてしまったか。住宅ローン地獄で家庭崩壊に至る現実がなぜ生れるのか。それは、誰のせいでもない。マイホーム建築の実務を知る努力を怠った施主に原因があると筆者は手厳しく言う。建築のノーハウを知らない施主達が、「知らない」を理由にして、「素人だから仕方がない。建築は業者にお任せ」とばかり、わが家を手に入れる経緯をすべて業者任せにしてしまったツケが情け容赦なく施主にのしかかってしまうからである。
筆者は、施主の建築無知が施主からゆとりある暮らしを遠ざけてしまっていることにまで踏み込んで、人間らしい暮らしを取り戻すことを考える。
もうひとつ、この著書の大きな特徴は、マイホーム建築に実際に携わる建築士・現場監督・施工業者・職人への「めちゃ安マイホームづくり」参加の呼びかけである。彼らが建築士・現場監督・施工業者・職人本来のあるべき姿に立ちかえり、いかに遣り甲斐のある仕事をするかという提言をしていることなのだ。
家作りは、それを建てる側、そこに住む側、そしてその家の建っている地域環境にまで影響が及ぶものである。著者は、それらのひろい視野に立って、人間がいかに生きるべきかという問いを読む側に提示している。
読者は、この本を読むことで、今まであたりまえに受け入れていた社会の仕組みや法律に疑問が湧き、そうしたことに無知であった自分に気づき、やがて著者と対話して一緒に考えているような気分になっていく。
「わが家」されど「わが家にあらず」「生かされている自分」に気づく本である。
(自費出版ジャーナル第34号)