寒気の緩んだ寝起きにあって、子どもの頃へ思いを馳せて、浮かぶままに春先、今どきの当時の郷里(行政名・熊本県鹿本郡内田村)の田園風景をかぎりなく偲んでいる。懐かしい風景には甲乙をつけがたく、それぞれが横に並んで「イの一番」をなして、心いっぱい懐郷に浸っている。
連山を成す遠峯にたなびく春霞。里山の「相良山」すれすれに浮かぶ白雲。水温み出す「内田川」に煌めく陽光。裏の畑を緑いっぱいに埋める高菜の繁茂。川岸に萌えるヨモギ、川セリ、川ヤナギ。道端、農道脇、なおその周辺の田畑を黄色に彩る菜の花。それらに、のどかに飛び交うモンシロチョウ。畦道に萌え出る、スギナ、ツクシンボ、ギシギシ、スカンポ、ノビル。母手作りの草(ヨモギ)団子。わが家の裏に流れる内田川へ、小走りで向かった魚釣りの楽しさ。冬衣を脱ぎ薄手の農着に着替えて、笑顔が弾む父と母の姿。どれもこれもがわが生涯にあって、ちっとも褪せそうにない懐郷の数々。
わが子どもの頃の日本の国は、太平洋戦争終戦(敗戦)後の復興期の初っ端だった。人間はなぜ、戦争なんかするのだろう。現下、異国の春が、つらく思いやられている。