「いま 花鳥がとぶ」に寄せて
冨松めぐみ
伸びる
小さな かたい あさがおのたね
この 一つぶに
伸びる力が
ぎゅっと
つまっているんだよ
小さな かたい あさがおのたね
この 一つぶに
伸びる力が
ぎゅっと
つまっているんだよ
根っこを はって
つるが ぐいん
葉っぱを かさねて
つぼみが つんつん
あしたに かがやく 花のかいだん
ぼくも 一つぶのたね
わたしも 一つぶのたね
お日さまと
雨を たっぷり うけとめ
天にむかって 伸びていこう
一歩
一歩
自分の力を 大切に
光の かいだん のぼろうよ
ほら
小さなたねの 大きな力が
心の中に めばえてきたよ
「伸びる」──この思いを原点として、三十六年間。小学校の教室で子供たちを見つめてきました。その間、「伸びる」べき芽を無残に潰してしまういじめ、その克服は大きな課題のひとつでした。
世の中が変わり、大人が変わり、そして子どもたちも変わらざるを得ないという図式の中で、「いじめ」の構造も、昔とは様変わりしてきたようです。また、そのすさまじい実態のほどもお聞き及びのことと思います。
その「いじめ」の蔓延るクラスにも、一度ならず出会いました。乗り越えようもないほどの、しかし乗り越えなければならない難関。文字どおり命がけの葛藤の日々でした。干からび、ひしゃげ、ちぢこまった種たち。太陽の光も雨水も届かない教室は、まさに、がんじがらめの牢獄。子どもたちも教師も、出口を求めてもがき苦しみます。
自分を見つめなおし可能性に気づくこと、おかしいことははっきりと正す勇気をもつこと、立ち上がって一歩を踏み出そうと、必死で訴え続けました。それは、私の原点との闘いでもありました。
手探りでやっと通り抜けた長いトンネル。子どもたちが、力強く羽ばたいたその出口で、「いま 花鳥がとぶ」が孵りました。どこにでも居そうな主人公の「絵里」が、悩みの中から自我に目覚め、やがて立ち上がっていく道筋。「絵里」と一緒にその歩みをたどる子どもたちが、広い世界への扉を開いてくれるようにと、この一冊に私の思いのすべてを込めました。
心から出た言葉は、心に響きます。この一冊が、心から心へ、心と心を、少しでもつないでいけるように願いました。また、本に向かい合ったとき、子どもたちは、自分の心と語り始めます。しんとした心で、自分自身を見つめていくきっかけになってくれるように祈りました。
「いじめ」は、いつ、どこに起こってもおかしくないと言われていますが、いま「絵里」は、あちこちの教室を訪れています。他校でも、人権学習や読みもの教材として用いられているようで、「絵里」の新しい友達が増えてきています。
在職していた学校では、六年生のカリキュラムに組み込まれているので、クラスに出向いては、思いを伝えながら子どもたちと話し合いました。
その折、「伸びる」の詩で、子どもたちに呼びかけ、励まします。すると、最後には、晴れやかな表情で深くうなずいてくれます。「いま 花鳥がとぶ」も「伸びる」も、可能性という根っこでつながっているからです。「ああ、今どきの子どもだって、やっぱり」と、その本質を確信し、うれしくなります。
私にとって、かけがえのないものとなったこの一冊。現代文芸研究所所長であられた故田端信先生に、お人柄そのままの大きな温かいご指導をたくさん頂いた思い出深い一冊です。
「綺麗な絵本ができたねえ、と田端先生もお喜びになっていらっしゃいましたよ」と、親身になってご尽力くださり、共に喜んでくださった現代文藝社の大沢久美子氏。私の思いを詩情豊かな挿絵にしてくださった有益人良竹氏。
この一冊が、また新しい縁を生み出していくことを、深い感謝の念と共に祈っています。(現代文藝社より「いま 花鳥がとぶ」を出版)
世の中が変わり、大人が変わり、そして子どもたちも変わらざるを得ないという図式の中で、「いじめ」の構造も、昔とは様変わりしてきたようです。また、そのすさまじい実態のほどもお聞き及びのことと思います。
その「いじめ」の蔓延るクラスにも、一度ならず出会いました。乗り越えようもないほどの、しかし乗り越えなければならない難関。文字どおり命がけの葛藤の日々でした。干からび、ひしゃげ、ちぢこまった種たち。太陽の光も雨水も届かない教室は、まさに、がんじがらめの牢獄。子どもたちも教師も、出口を求めてもがき苦しみます。
自分を見つめなおし可能性に気づくこと、おかしいことははっきりと正す勇気をもつこと、立ち上がって一歩を踏み出そうと、必死で訴え続けました。それは、私の原点との闘いでもありました。
手探りでやっと通り抜けた長いトンネル。子どもたちが、力強く羽ばたいたその出口で、「いま 花鳥がとぶ」が孵りました。どこにでも居そうな主人公の「絵里」が、悩みの中から自我に目覚め、やがて立ち上がっていく道筋。「絵里」と一緒にその歩みをたどる子どもたちが、広い世界への扉を開いてくれるようにと、この一冊に私の思いのすべてを込めました。
心から出た言葉は、心に響きます。この一冊が、心から心へ、心と心を、少しでもつないでいけるように願いました。また、本に向かい合ったとき、子どもたちは、自分の心と語り始めます。しんとした心で、自分自身を見つめていくきっかけになってくれるように祈りました。
「いじめ」は、いつ、どこに起こってもおかしくないと言われていますが、いま「絵里」は、あちこちの教室を訪れています。他校でも、人権学習や読みもの教材として用いられているようで、「絵里」の新しい友達が増えてきています。
在職していた学校では、六年生のカリキュラムに組み込まれているので、クラスに出向いては、思いを伝えながら子どもたちと話し合いました。
その折、「伸びる」の詩で、子どもたちに呼びかけ、励まします。すると、最後には、晴れやかな表情で深くうなずいてくれます。「いま 花鳥がとぶ」も「伸びる」も、可能性という根っこでつながっているからです。「ああ、今どきの子どもだって、やっぱり」と、その本質を確信し、うれしくなります。
私にとって、かけがえのないものとなったこの一冊。現代文芸研究所所長であられた故田端信先生に、お人柄そのままの大きな温かいご指導をたくさん頂いた思い出深い一冊です。
「綺麗な絵本ができたねえ、と田端先生もお喜びになっていらっしゃいましたよ」と、親身になってご尽力くださり、共に喜んでくださった現代文藝社の大沢久美子氏。私の思いを詩情豊かな挿絵にしてくださった有益人良竹氏。
この一冊が、また新しい縁を生み出していくことを、深い感謝の念と共に祈っています。(現代文藝社より「いま 花鳥がとぶ」を出版)