四冊の自費出版

四冊の自費出版

浅 香 ひとし
 私が「自費出版」を思いついたのは、今から十七年前のことである。若い頃から文学にかかわっては来たが、これといった作品もなく、内容的にも中途半端なものばかりであった。
 エッセイ、俳句、小論、小説、野鳥観察、それに労働組合の活動にまで踏み込んでいた。一九八〇年代に入ると、職場の合理化はきびしくなるばかり。もう自分で出来る事をやるしかなかった。
 自分の考えや行動を一冊にまとめる。その事は原点に戻って自分をみつめる事でもあった。そこで私は、まず「日本野鳥の会」の会員として見聞した「自然破壊」について書きたいと思った。
 ところが、データーの記録といったら「いつ何という鳥を見たか」という位のものでしかなかった。それで「滅びゆく自然を訪ねて」という表題にはしたが、紀行文のような、観察記のような中途半端なものになった。
 二百二十枚程の原稿にしてみたが、とても満足のいくものではなかった。しかし考えているより形にしてみようと三百部出版した。それだけに「自信をもって売る」という気にもなれず、野鳥の会と「労働教育センター」で五十部ほど売っていただいただけだった。
 あとは友人知人に配ってしまったが、かなり後になってから「それを読みたい」という方があって、もっと手元に残しておくべきだったと思っている。そして次に「俳句集」を二百部出版、これも一応「結社」にも入っていたものの、配ってしまった。
 次に短歌でたどった自分史「転職の時代」を二百部出版、これもそれなりの収穫はあったが、句集と同じような結果になった。そして五十一歳で退職したのを機に、文集「肩書きのない労働者」を出した。
 これも中途半端であったが、自分史の部分と、現在から未来への社会問題を、ある程度訴えたつもりである。この文集は「オリジン出版センター」から七百部出版、社長で詩人でもある武内辰郎氏の助言もあり、一応問屋を通して店に並べてもらった。
 大きな店だけであったが、三百五十部位出たようであった。それと出版パーティーをやっていただいたり、友人知人にも買っていただき、八十万円の費用は、六十万近くは戻って来たようである。
 あれからもう九年にもなり、新しい社会問題も次々と起っている。リストラ、新種の犯罪、東海村の事故、それに私の所属する文学集団でも新しい動きが出て来たし、自然破壊も進む一方、今度こそ、もっとはっきりとした内容の本を出したいと思っている。(「滅びゆく自
然を訪ねて」労働教育センター、句集「野鳥の季節」黒船印刷、歌集
「転職の時代」平和印刷、「肩書きのない労働者」オリジン出版セン
ターより出版)