無限の鉱脈を

無限の鉱脈を

峰 丘   一
 現代文藝社より『半島の虹』を自費出版してから一年半になる。未発表の前編(一五〇枚)を伏せて、応募した続編(二〇〇枚)が現代文藝賞を受賞した。それを一つにまとめる意味で、手を加えて出版に踏み切った。
 ちょうどその頃、通信制度で文藝・文章養成をしている現代文藝研究所の出版部門が独立して現代文藝社が設立された。頁数と発行部数別の表示価格に並製本、上製本のランクがあり、表紙、帯等の仕様も含めてその価格も安く、そのうえ納本までの過程に作品の内容チェックや指導、最終的なゲラ校正にも余裕があり、私は出版契約した。
 文学を志す者にとって、同人誌に発表する作品の読まれる範囲はごく限られている。それ以上多くの人々に読んでもらおうとすれば、マスコミのどれかの賞に応募するしかない。
 一つの賞に数千人も応募する確立からみて、入賞が夢のまた夢であればそれまでである。ましてややむにやまれぬ書きたい素材を抱えている者にとつて、その素材がマスコミ受けしなければ尚更だと思う。
 速い流れの進行による現代の様々な分野で起こる人間模様の様相を体験していても、まだ表現技術の伴わない埋もれた書き手たち。
 その掘り起こしは、賞という餌で釣る横着なやり方のマスコミや、それに便乗して筍のように発生したカルチャーセンターでは無理。
 それが可能なのは、自費出版図書館を城にもつ、自費出版本の店頭展示や大掛かりなブックフェアを手掛けてきた自費出版フォーラムの組織ではないでしょうか……。
 一回きり自分史を望む人達。相変わらず入賞の僥倖を目指して賞に応募している人達。根気よく書き続ける同人誌の人達。等々、無限の地下鉱脈が目の前に横たわっています。
 その人たちは、自費出版で儲けようとは夢にも思っていません。同人誌にしろ自分の力で配布出来る部数は、せいぜい一人二十部程度です。仮に多くの人に読んでもらおうと、無料で配布しても五十部がやっとです。だからまとまった自分の作品を自費出版しようと思っても、部数が少ないだけにその費用が高くついて二の足を踏みます。
 もし部数がその五十部の何倍かに増えるそんな可能性のある販売システムが存在するとすれば、例えそれが格安の有料であっても、読んでもらえる読者が増えることで、書くことの刺激も相乗し連続して出版も重ねられます。
 手始めにフォーラムで全国の同人誌をもれなく集めてその中の秀れたものを抜粋し、年に何回か出版されてはいかがでしょうか。もちろん抜粋作品から掲載料を戴いて、フォーラム主催の作品集を発刊されるのも一案かと思います。
 その実行が可能になれば、全国の同人誌の書き手たちを読者に組織化することも夢ではなく、自費出版への一つの大きな展望も描けるのでは……。(「半島の虹」を現代文藝社より出版)

*自費出版フォーラム機関誌「自費出版ジャーナル」21号より転載