虫けらに慄(おのの)く、わが日常

 わが肉体は自分自身、驚くほどに毒素に弱い質(たち)である。ムカデに刺された薬指は、今なお聖護院大根みたいに付け根のところが太く膨れて、赤みを帯びて固いままである。それだけのみならず、痛みはずっとひかぬままである。あらためて私は、このことに恐怖感をおぼえて、もはや書くまでもない「ムカデ騒動」の顛末記を書いている。怯える根源は、大型のムカデに心臓あたりを刺されでもしたらという、戦々恐々の思いである。
 わが家周辺には、ムカデ、スズメバチ、マムシ、などが棲みついていると、散歩めぐりの人たちが言う。「気をつけてください!」。見知らぬ人たちからさずかる、ありがたい警告ではある。しかしながら私には、気をつけるすべはない。いや、そのつど恐怖心を煽(あお)られ、いっそう募(つの)るばかりである。藪蚊もブンブン飛び回って、わが生血(なまち)を、隙あればと狙っている。虫けらに慄く、わが日常である。