無償のタクシー券につのる思い

 新型コロナウイルスの問題は、まさしく魔界のもたらす出来事であり、加害者無き被害者現象の様相を呈しています。それゆえに人々は感染恐怖に慄(おのの)き、防御対策に梃子摺(てこず)っています。もちろん、日本政府や各地方自治体および医療関係者の対策に対し、手ぬるいなどと非難を浴びせることはできません。新型コロナウイルスへの対応は、日本国民はもとより人民共通の難題です。これへの唯一の対策の光明は、確かに人間の知恵が生み出したワクチン接種に限られると、言えそうです。
 ところが現在、好事魔多し、新型コロナウイルスにおける変異株が日替わりめし屋のごとくに次々に現出しており、そしてこれらに対するワクチン効果に疑念が生じはじめています。それでも人民は、藁をも掴む気持ちに変わりありません。おのずから現在、日本政府と各自治体、加えて医療機関は、三位一体(さんみいったい)となって接種作業の段取りに大わらです。しかしながら接種の実態は、私には漠然としたままで、臨場感が薄れていました。
 こんなおり高橋弘樹様は、さいたま市にお住いのお母様の接種日程を明確に記して、実際の接種の様子を詳細にご投稿くださいました。まさしく、機を得たご投稿にさずかり、感謝の念を添えて御礼申し上げます。これにちなんで、わが現住する鎌倉市の施策の様子を書き添えます。
 それは、こういうことです。すなわち、鎌倉市は何か所かに予定している接種会場へのアクセス不便を考慮して、高齢者に限り往復のタクシー券を提供するというものです。先日、これに関する案内が届きました。もちろん私の場合は、もとより無償提供のタクシー券に甘えるつもりはありませんでした。一方、腰を傷めている妻の場合は、接種行動に躊躇(ためら)いをおぼえていました。ところが妻は、この案内により出かけざるを得ないと、躊躇う気持ちにふんぎりをつけたようです。もとより妻の場合も、私は自弁のタクシーでそろって、出かける心づもりをしていました。
 こんなおり届いたタクシー券提供の案内には、背に腹は代えられない鎌倉市のやる気を感じました。もちろん各自治体共に、できれば100%接種(完結)への工夫を編み出し、現在は接種の段取り作業の大わらわの真っただ中にある。どちらかと言えばどうでもいい選挙の投票箇所への行動とはまったく異なり、直接的にわが身体を助ける接種であり、現在の私は真摯(しんし)かつ厳(おごそ)かな気持ちで、具体的な接種日取りの案内を待っているところです。
 日本国民はもとより日本国籍なくも日本に住む人々、すなわちすべての人民こぞって、ワクチンの効果疑念などそっちのけで、接種にあずかりたいところです。なぜなら、ワクチンに頼るしか、魔界の悪魔退治は出来そうにないと、思うからです。確かに、高橋様のご指摘にように、(なんだかなあ……?)と思うところは多々あります。しかしながら、関係者の段取り作業の多忙をかんがみて、生来へそ曲がりの私も現在は、素直な気持ちをたずさえて接種日取りとタクシー券の到着を待っています。無償のタクシー券の到着を待つのは、素直と言えるかどうか、ちょっぴり疑わしいところです。