いつもゴミを捨てにゴミ捨て場に行く時に思うことだが、多くの人がお医者さんから貰った処方薬の多くを無駄にしていることに気がづく。医者に処方された薬が殆んど飲まずに薬袋ごと、透明のゴミ出し袋に入れられて、捨てられているのだ。殆んどの人が医者に処方されて、ある程度の薬を飲んだ後、例えばカゼなどの不快感や足を痛めた時など、それが治ると、残っている薬をもういらないとばかりに、薬袋ごとゴミ袋に入れて、捨ててしまうのだ。
このようなやり方で、薬をむやみに破棄することは、大変もったいないことだ。考えてみれば、普通、患者は健康保険組合に加入していて、保険の種類によって一割から三割負担で薬を薬局から受け取っているので、薬の値段を安く感じている。が、もし、保険に加入しておらず、十割払っていたら、相当高い薬代を支払うことになる。そのことを多くの人々は認識していないのではないだろうか。それゆえ、医者から薬を処方され、ある程度飲んで病が回復し、気分が良くなると本来は高い値段である薬のおかげ、有難さをわすれ、残りをゴミとして捨ててしまうのだ。
広く、人々がお医者さんから処方してもらった薬を、最後まで飲まず捨てないようにするにはどうしたらよいだろうか。それには、人々が薬の知識をつけ、処方された薬を知ることであって、さらに、もし、薬を保険が効かずに十割を支払ったなら、薬は大変高い値段になり、貴重なものだということを認識することだ。そうすれば人は、例えば、カゼをひいて、処方された薬をある程度飲んで、不快感がとれたとしても捨てずにとっておいて、次にカゼをひいた時に、また同じ薬を飲もうという意識が出来、ゴミに捨てたりして、薬を無駄にしないようになるだろう。
薬の知識をつけるというのは、薬には一つの効果だけではなく、別の疾病の症状にも効くものがあることを知ることだ。人がそのような薬の知識を少し持てば、人々は医者から処方してもらった薬を捨てずに取っておいて、別の症状が出た時に使うようになるかもしれない。
その具体的な薬の例をあげてみたい。ある人が、足を捻挫で痛めたり、膝をひねって痛めたとしよう。その場合、その人は整形外科へ行き、貼り薬と痛み止めの飲み薬を処方してもらうのが普通だ。そして、人は痛みを止めるためその薬を飲み、痛みが取れ、薬が余ったとする。その薬を捨てずに取っておけば、カゼをひいた時にカゼ薬としても使える。整形外科で処方してもらったその薬は、解熱鎮静剤と呼ばれ、カゼについては熱っぽいだるさや寒気の不快感を取ってくれるものだ。もし、薬の知識のある患者であれば、薬をゴミに捨てずに取っておき、風邪薬として使っただろうが、知らない人だと足の痛みが治ると、残りの薬を捨ててしまう。このようなことがないように、薬の知識をつけて、薬を捨てたりしないで取っておいて、カゼをひいた時に飲んで、内科医へ行って薬を処方してもらわなくても、整形外科でもらった痛み止めを飲んで代用するのだ。そうすれば、医者代、薬代を節約できる。私は、このような自己処方を実行している。
同じように、解熱鎮痛剤を出しているのが歯医者である。主として歯を抜いたり、歯を削ったり、あるいは虫歯で、ひどいもので神経の根を深くいじって、ひどい痛みがある時、痛み止めとして出している。三日分とか少ないもので、整形外科や内科のように一週間分とか多くは出さない。歯の治療で、特に痛い場合は、飲まなくてはならないが、そんなに痛まなければ飲まなくても済むこともかなりある。私の場合がそうであって、何回も歯医者でもらった痛み止めを飲まずにとっておき、カゼ薬として使っている。
歯医者は、一般の医者と違う傍系の医学なので、解熱鎮痛剤や抗生物質も一般の医者が出せる薬のほんの一部、限られたものしか患者に出せない。しかし、私が薬の辞典や一般向けに書かれた医学雑誌、NHKの「きょうの健康」などを見て調べると、歯医者が出している解熱鎮痛剤、抗生物質は、整形外科の出しているものと同じものを出している。また、これらは内科でもそれと同じものをカゼ薬としても出している。それ故、飲まずに取っておけば、カゼ薬としても使えるのがわかる。
他に歯医者は歯を抜いた時には、抗生物質を出す。また内科でもカゼをひいた患者に解熱鎮痛剤と共に処方している。この抗生物質は、バイ菌を殺すための薬であるが、歯医者が出したり内科医がカゼをひいた時に使うのは、予防のためだ。歯茎が化膿しないためと、カゼの二次感染で肺炎にならないようにするためだ。このような抗生物質を飲まずにとっておけば、皮膚におできが出来て化膿した場合に、またヤケドをした時にバイ菌の感染を防ぐのに使える。
私の経験として、抗生物質をためておいたものを使って、下痢を治した事がある。かって、私は品川区の八潮公園にカキを獲りに行っていた。人工の渚があり、海の中に多くの庭石のような岩を組み立て、海水に浸かった所に多くの天然のカキがひっついていた。大きめのをそれを大きなマイナスドライバーで引きはがし、スーパーのビニール袋に二つぐらい電車で持ち帰り、横浜の自宅でペンチで割り、カキの身を生でポン酢かレモンの汁をたらし、ケチャップをかけて食べていた。新鮮で生ものはなかなかのものだった。しかし、ある時、失敗したのは、貝殻が開きかけたカキをいいだろうと思って食べたところ、バイ菌に当たって数時間で大便が水のようになり、十分おきに便所へ行くハメになった。ひどい下痢で有り、一種の食中毒である。
そこで私は、飲み残してためておいた抗生物質を片っ端に飲んで治療することだった。薬の知識があったので、すぐにこの方法が取れた。一番初めに抗生物質を飲んでも、すぐには効かず、十五分おきに水のような大便が出たので便所へ行った。そこで三十分おきに色々な種類の持っていた抗生物質を飲んだ。セフェム系の薬、青カビ系のペニシリン系、合剤、静菌性抗生物質などをかまわず飲んだ。中には、その時より十五年以上前、歯を抜いた時にもらった変質したカプセルもあった。そんな努力が叶い、二時間ほどで下痢が止まり、気分がよくなった。抗生物質が菌を殺してくれたからだ。
この例などは、薬の知識があったので、医者に行かずに食中毒と思われる下痢を自分で治せた。保健所にも届けはしなかった。
他の例として、精神安定剤があるが、私自身は神経内科より処方されている。この安定剤は神経不安を取るだけでなく、血圧を下げたり、その関係上、筋肉を柔らげてくれる。だから、高血圧の薬としても使われ、肩こりなどにも多少効く。この薬、安定剤を神経内科からもらう他に、麻酔科の開業医から緊張性頭重感のため、肩こりが原因なので、麻酔注射を首の神経節に打ってもらうだけでなく、肩こりを取るため、筋肉を柔らげる薬、ミオナールをもらっている。薬には相互作用というものがあって、二つの薬を一緒に飲むと互いの薬を強化するものがある。私は、薬の知識があるので、安定剤とミオナールを一緒に飲んで、相互作用を利用している。
その他に神経内科からもらっている薬に古い型の胃潰瘍の薬として開発され、後にウツ症状に効くことがわかった。学名スルピリドという薬で有名なものは、ドグマチールとかアビリッドとかあるのだが、私が医者から処方されたのは、ジェネリックの薬、学名と同じスルピリドだった。ただし、この薬は、本来のウツ病の薬とはちょっと性質が違うものだ。
その薬を飲んでいた時、偶然に面白い事が起った。元来、私は世の中で悪い人間が犯罪を犯したりすることを見ると、強い怒りを覚えたり、他人に嫌な事をされたりすると、すぐに怒ったりする。すると、胃が収縮するように感じたりしたが、約半日ぐらいすると、自然に治ったりしていた。実は、これが胃潰瘍の自覚症状であったのだが、胃潰瘍だとは思わず、内科へ行き、胃潰瘍の薬を処方してもらうこともなかった。が、後日、保健所で胃ガンの検診を受けたら、レントゲンに胃潰瘍の痕が見つかった。これは胃潰瘍の治った痕なので、間違いなく精神薬として、神経内科から処方されたスルピリドが偶然に効いていたことが判明した。もっと詳しい検査をしたら、その時は胃にそれ以上は異状がなかったが、それ以来、いやな事があった時などは、胃に収縮感を覚えた時は意識して神経内科で精神の薬として処方されたスルピリドを飲んで治療している。
このように、薬には、お医者さんから処方された薬をある程度飲んで病気が治ったら、残りを捨てずに取っておけば、同じ症状だけでなく別の症状にも効くので、自分で処方し、お医者さんへ行かずに済む場合があることが筆者の体験でわかるであろう。他の人が私と同じようにやるとしたら、どうしたらよいだろうか。そのためには、言うまでもなく薬の知識をつけることだが、一番簡単な方法は、本屋さんに売っている厚い「お医者さんからもらった薬がわかる本」を買って来て読むことだ。これは一般向けにわかりやすく薬について書かれた辞典のようなもので、薬の効用、薬の学名や副作用、相互作用、一緒に飲んではいけない薬などが書いてあり、薬学の知識のない人でも薬の知識がつく。
私の場合、今から二十年前、成人病になり、医学の勉強をしようと思い、たまたま横浜駅の地下鉄の駅の構内にあったリサイクル文庫で、医者が医療現場などから破棄した古い医学書を二百円とか三百円とかの二束三文でたくさん買って読み始めた頃だった。それに加え、たまたま平成の初め頃、ハゼ釣りを観見川の河口でした帰り道、観見駅の近くの古本屋さんで、白馬出版という無名の出版社が出していた「お医者さんからもらった薬がわかる本」を見つけ、安価で読み始めた。興味を持ち、毎日のように読んだ。その後、リサイクルショップで九四年版の医師が使う医学書院の「治療薬マニュアル」をわずか百円で手に入れ、それに製薬会社がお医者さん向けに渡した薬の論文や資料を医者からいらないものをもらい読んでいった。
他の人は、そこまでする必要はないが、せめても本屋さんで、「お医者さんの薬がわかる本」を買い、薬の知識をつけて、薬を無駄にしないようにしてほしい。十割払ったら薬は高い上に、あと数十年で石油が枯渇すると、今の薬が飲めなくなるかもしれないからだ。殆んどの薬は石油から精製されている。将来は、漢方やその他の生薬に変えなくてはならないので、現在の石油から作った医者の処方薬を無駄なく飲むべきである。
なお、「お医者さんの薬がわかる本」は、平成の初め頃、白馬出版が出したところ、売れたので、今では小学館や講談社などメジャーの出版社も出している。
医者から処方された薬を無駄なく使う方法
(流星群だより25号に掲載)