日本経済の虚栄の繁栄と変化

 超好景気だった日本経済は土地の異常な高騰に規制がかかり、バブルがはじけ、一九九〇年代初めより経済崩壊となり、それ以後、マイナス成長になった。政府の適正な景気政策が取られず、楽観視していたため、経済状況は好転しなかった。その原因は不景気のため、消費者が買う物の出費を控え、売れなくなったので、店は値下げ競争を行い、激安、価格破壊などを行なった。その結果、商品の総生産高はバブル以後も現在まで延びているのに、個々の商品価格がどんどん下がり経済が萎縮していった。価格が下がれば、企業収益が下がり、給料が下がり、消費が悪くなり、経済全体が縮小する。これがマイナス=スパイラルである。
 これと逆なのが高度成長期の経済現象であった。企業は莫大な資本を投入し大量生産をし、手ごろな価格の商品を売る。すると消費者は買い、企業の利益が上がり、人々の給料は上がり、ますます、物を買う力は上がり、なお、企業の利益が上がり、経済成長をする。毎年、人々が買う結果、競争力により、物の価格は少しずつ上がっていく。
 だが、この高度成長期の物の価格や利益には風船のようなもろさ、膨張があったのだ。現在の不況時の値下げ競争で、価格が安くても利益が何とか出ているのに、高度成長時には種々の商品の価格がずっと高かった。つまり、通常より高くつり上げていたのだ。以下そのカラクリを事例で示して説明したい。
 まず、高度成長時、高額な価格を設定していたのが航空運賃である。とりわけ海外航空運賃である。国際協定機構(IATA)の国際協定により、法外な料金が定められていた。
 例えば、東京からヨーロッパ、ロンドン、パリへ行くのに当時は片道三十万円、往復六十万円もした。現在では同区間往復十万円前後である。この価格の意味は、個々の乗客に高額な運賃を払わせ、空席が出て、ガラガラになった時のフライト便の空席の分まで払わせていたのだ。通常、航空会社の国際線の全フライトは一年を通すと、満員になる時もあれば、半分以上空席の時もある。これでは、儲けが出ないで赤字になる危惧、リスク感がある。そこで、国際協定運賃で、例えば東京︱ヨーロッパ便など片道三十万円と定め、一年中すべてのフライト便が空席なく満席になったと想定して、空席になるだろう分も料金から補填させていたのだ。従って、ヨーロッパ便片道三十万円を払った乗客は、自己の運賃に他のフライト便の空席の分まで払っていたのである。これにより、航空会社は黒字利益を確保していたのだ。その上で、実際に空席が出たのをヤミの安い航空券として、かってに売っていたのである。高い料金で空席分を補填して利益を確保した上で、ヤミの安い航空券で売り、二重に利益を上げていたのである。当時も、旅行会社の安いパック旅行がヨーロッパ便を使ったものがあったが、団体料金の航空運賃は往復八万円ぐらいであった。これは片道三十万円の時に、空席をうめるためと、このような安い料金で出来たのは団体だと、一定数必ず乗ってくれる保証があったからである。現在は、かつての国際航空運賃の協定が規制緩和が取れなくなり、ヨーロッパ便は往復十万円前後となった。料金が安くなったことで空席は少なくなった。国際線を独占していたJALが破綻したのもそのような理由からだ。
 同様に旅館の料金にも、そのような傾向が現在でも見られる。旅館の料金は、春休み、ゴールデン=ウイーク、夏休みなど、人々が休暇があって旅行するオン=シーズンほど、旅行のピーク時に、オン=シーズン料金として、普段よりも割高な料金を設定する。旅行のピーク時は、たとえキャンセルが出ても、キャンセル待ち、ウェイティング状態であるので、すぐに代わりの客を補填できるのに、普通に考えたら変である。これも、かっての国際航空協定運賃と同じようなカラクリがある。旅館というのは、冬休み、夏休みなど、オン=シーズンにはお客が満室になる保証があっても、普段のオフ=シーズンの時はあまりお客が入らないので、空室の時が多いと一年通して赤字になるのではないかというリスクに対する不安がある。そこで、オン=シーズン中に一人当たりの宿泊料金を出来るだけつり上げ、シーズンオフの時の空室が出た時の分をも稼ぎ、赤字にならないようにしているのだ。そして、旅行会社は夏休みなどのシーズン中を避けて、普段の空室の出る時に一人当たり団体格安宿泊料金で安いツアーを組むのだ。旅行としては旅行会社に値切られても、夏休みなどのシーズン中に採算、黒字を確保しているので、ツアーを受け入れているのだ。ケーキの値段も同様である。ケーキ一個当たりは洋菓子屋によって違いがあるが、一個三百円から四百円している。この料金は、店頭のケースに並ぶ形のよい売り物になるケーキと、形が崩れたりした売り物にならない分も含めた、ケーキの材料費、加工費を含めた上で、利益が充分出るように想定して、ケーキ一個当たりの価格を定めている。形の崩れたケーキの数の方が店頭に並ぶ売り物になるケーキより多く出るかもしれないし、また店頭に並んだケーキも売れ残り、全部売れないこともある。それらを想定して一個当たりの値段をつけているのだ。
 売れ残りや売り物にならないケーキは捨てるか、店の人が私的に持ち帰るしかなかった。が、現在は長い不況で、形の崩れたケーキもワケあり品として売れるようになった。
 都会のスーパーでは、カレー粉、調味料、マヨネーズなどは小さい物を割高で売っている。ところが岩手県など地方のスーパーマーケットに行くと、料理店などが使う業務用の一キロとか二キロの大きな袋に入ったカレー粉、砂糖、調味料などを非常に安く売っている。これは、農村では農家など家の近くにスーパーがなく、交通機関もなく、アメリカのような車を持たなければならない社会なので、遠いスーパーへ車で行って、大量に調味料、砂糖などを買いだめしておかなければならない。そこで、キロ当たり安価な業務用商品が売れるのだ。これは都会だと大量に使う料理屋やレストランにしか売れないので、個人用としてのカレー粉や調味料など小さな商品を高い値段で売っている。スーパーが近くにあり、家庭では使い切れる家庭用の小量の調味料を頻繁に買い、業務用のキロ当たりの大量商品は使い切れないからだ。業者としては大量な業務用品は売れないので、利益確保のため家庭用の小さな商品を割高に売って利益を確保しているのだ。
 フランス料理や和風の高級料理店なども高い料金を設定し、利潤を上げていた。フランス料理店などは、牛肉、フォアグラ、エスカルゴなど、また和食料理店では神戸牛や松阪牛など、とびっきり高価な食材を選んで調理し出しているが、その量と言えばわずかな量しか出さない。フランス料理のフルコースも小量の食材を出している。これは高級イメージに便乗し、高い利潤を上げ、高級な雰囲気を出すための装飾を維持する費用に当てている。だが、不況が長く続き高級料理店も店を閉める所も出ている。格安な食堂などでもっと量の多いものを出しているからだ。もはや高い利潤は上げられない。高級ホテルは殿様商売をしていた。パーティーなどで一万円でちゃちな焼きそばや中華料理しか出さなかった。反対に一流でない小さなホテルは六千円でビーフシチュー、ローストビーフなど高級なものを出していた。
 このように、好景気の時は、売れなかった時のリスクを避けるため、多くの業種の企業が各商品の値段を高くつけて大きな儲けを上げていた。そのような高い値段で儲けていた構造が、長い不況で、グシャッとつぶれたのが現経済状況なのだ。が、長い不況で正規の物が、普通の値段では売れなくなり、キズのついた魚、大きさが不揃いな魚、形の悪い野菜、形の崩れたケーキ、一粒が半分になった米、くず米などが正規の値段と並列的に格安な値段で売れるようになった。
 これから消費者が自分のその時の経済状況に合わせ正規の値段で買うか、格安の値段を選んで生活する、安定経済が望まれる。案外、形の悪い野菜やキズ物商品など、それまで売れなかった物が売れるようになり、経済刺激になるかもしれない。

(流星群だより17号に掲載)