今から約十五年前、体重がありすぎ、変形膝関節炎を起こし、痛くて歩けなかった。医者に行ったら痛み止めの他、膝の下の筋肉をつける運動をするよう言われたがうまくいかず、何か楽に、自然に膝の筋力をつける方法はないかと考えた末、自転車に乗り出来る限り遠くへ行くことにした。最低でも半径五キロから十キロ自転車をこぎ、街並や風景、公園等を回り、本で学ぶのと違い、見て学ぶ体験をした。
そんな時、新聞販売店から当時川崎球場にいたロッテ(現千葉ロッテ)のパ・リーグの試合の招待券を貰い、自転車で球場へ野球の試合を見に行くことにした。自転車で川崎球場に行くには、JRの川崎駅と観見駅との間でJRと並行して走る京急線の二つの路線を横切らなければならない。そこで、毎回自転車で球場へ行く時、元来、同じ道を通るのはつまらないので、京急の京品観見駅、観見市場、八丁畷京品川崎駅で二つの線路を横切ることにした。毎回、球場へ行く毎に線路を横切る場所を変えていたが、その時、思い掛けない発見があった。横切っていた踏切りのある京急線の駅の近くのいくつかの商店街の外見、街並、店の種類がそれぞれ違うことに気付いたのだった。
例えば、京急観見駅の近くの商店街は銀座と呼ばれ、飲食店、コンビニ、スーパー、文房具屋、用品店、金物屋のあるオーソドックスな商店街。一方、隣の駅、観見市場は、古くからお寺のある小さな門前町だった面影があり、寝具屋、下駄屋、ぞうり屋、スッポン料理店などコンビニはあるが、あまり飲食店や生鮮食料品がなく、昭和三十年代のガラスのガラガラする戸で出来ているなつかしさがある街並の商店街。次の八丁畷駅は、JR浜川崎線と京急と二つの駅が交わる所で、商店街は二つの線路の下の狭い所にほとんどが飲食店でギッシリ詰っていて、一つか二つ化粧品屋があるだけだ。鶏肉やきとり、もつ煮、一杯飲み屋、小さな寿司屋など。
このように商店街に特徴と違いがあることを発見した私は、それ以後、自宅を中心に十キロ以上、商店街を求めて長距離行くことにした。尻手、大口、六角橋、綱島、川崎の鹿島田、武蔵小杉、元住吉、そして電車でも磯子、蒲田、戸越銀座、弘明寺などへ行った。
これらの「商店街巡り」の経験から買い方や商品について述べてみよう。各商店街には必ず、有名スーパーやコンビニの他に、地元の個人経営のスーパーがある。このようなお店だと、他で見られない商品を売っていることが多い。主として、お菓子、せんべい、ソース、調味料、パン、牛乳、お茶、ケーキ類、カレー粉、シロップなど、仕入れが違い、地場産業と呼ばれる地方の有名ブランドでない良品を売っていて、安価なものがある。普通のスーパーなどでは珍しいものだ。横浜のある個人スーパーでは「近藤牛乳」(百円)など非常に安価で売っている。この種のお店は古くは「よろず屋」と呼ばれていて、仕入れが違うのだろう。別の商店街には別の、この種の店があり、違った商品がある。別の商店街を訪ねる意味がある。
有名スーパーでもスーパーの会社が違えば別の商品を売っているが、スーパーや町のディスカウント=ストアーも全体的には普通のお店よりも安いが、一つや二つ、普通のお店の方が安い品物もある。あるディスカウントマーケットは一般に魚は値段が安いが、タラコだけは魚屋の方が量が多くて安いという事例があった。
同じ系統のスーパーでも違う場所のお店だと扱っていない商品もあり、さらに売れ残った商品の値切り方が違う。ある店では半値にするのに、ケチなお店では三十円とか五十円しか値切らないお店もある。値切りは店長の裁量に託されているからだ。百円ショップもいい商品でも、お店によっては売っていない場合がある。ましてや違う会社の百円ショップでないとない商品もある。ある百円ショップで売っているCD、プロレスの覆面、おもちゃは別の会社の百円ショップにはないし、同じ系統のお店でも店によってはない場合がある。黒まめココア、アンチョビーの缶詰、フィリピンの百円で十六個くるピーナッツ=クリームサンドクラッカーなどもしかりである。
ディスカウントでない普通の商店でも、同じ商店街の中で他のお店にはない安価な良品はあるので、色々な商店街に何回も足を運び、この商品はこのお店で買おうと、別の商品は百円ショップで、さらに別の商品は地元のスーパーというふうに、商品別に買う店を決め、買い慣れたお店だけでなく、別のお店、よその商店街へ訪ね、色々な店で買うことをお勧めする。
商店街巡りの面白さ
(流星群だより第10号掲載)