七月十九日(火曜日)、起き立ての風は、早や秋の風である。窓ガラスを網戸にすると、ひやりと冷感をおぼえる風がどどっと、吹き込んだ。想像上の鬼は、人間の難敵である。いたるところで悪さをする。まさしく悪魔である。漢字の成り立ち、すなわち「魔」の部首は「鬼」である。普段、二度寝にありつけず苦しむ私は、ときには鬼にすがり、確かに「睡魔」に襲われたい気分山々である。ところが、実際には二度寝に睡魔は現れず、悶々するのがたまらず起き出してくる。しかし昨夜は、二度寝を誘う睡魔が現れたのである。久しぶりに途中目覚めず、熟睡にありついた。熟睡は安眠とほぼ同義語である。それゆえ起き立のわが気分は、すこぶるつきの爽快である。好事魔多し。一方では執筆時間に急かされて、現在のわが気分は大慌てである。こんな気分では、心象で書く文章は書けない。しかし、文章は書けなくても損はない。しばし、天与の恵みに酔いしれたい気分旺盛である。だから、尻切れトンボの恥をさらしても、恥じることもなく、これで書き止めである。現在の私は、至境すなわち「桃源郷」に住んでいる。曇り空にあって、朝日の輝きはない。けれど、熟睡にありついて、全天候型に心地良い夏の朝である。熟睡を恵んだのは、案外、秋の気配のせいかもしれない。そうであれば夏を好む私は、熟睡を手放しには喜べない。できれば欲張って、明日の夜も、睡魔に襲われたい。ところが案外、二度寝を妨げるのも、鬼のしわざなのかもしれない。人間にとって鬼はやはり、とことん魔物である。