いま花鳥がとぶ

上田めぐみ著

 一面に広がる菜の花畑と麦畑の中を通りぬけて、大きな山のふもとにある雑木林の中のゆるやかな山道を越えると、農業高校の実習農園が広がっている。絵里はその大自然の中を通って小学校に通っている。ある日絵里は、いつも一緒だった仲良しグループから訳もなく「仲間はずし」にされてしまう。そのグループでは以前からそんなことが公然と行なわれていた。絵里は自分が「仲間はずし」にあってはじめて、それまで「仲間はずし」にあったことのある美也の気持ちや、誰も話し掛けてくれなくなった時、「仲間はずし」にされることがわかっていながら話し掛けてくれた千晶の毅然とした態度を知る。そして、これまで考えもしなかったグループについて自分の問題として考えるようになって行く。
 この「仲間はずし」という現象は、子どもたちの間ばかりでなく、大人たちの意識の中にもある大きな問題だと思う。人間が地域社会を作り、集団で生きていくようになった時、その中に起るさまざまな問題を解決していくためには、子どもの時から常にそれらを考え、立ち向かっていく力を身につけておかねば、やがて無気力な向上心のない大人になって、思いやりのない、自分本意な人間社会が出来上がってしまい、そのことさえも気づかない人間になってしまうのではないだろうか。
 著者は小学校の教師をしている。近年の学校で起こっている「いじめ」「登校拒否」の問題を子どもたちの身近な出来事を通して作品にしている。この本が発行されると、著者の身近なところから次第に小学校の教材になるほど読み継がれ広がっていっている。
 著者はあとがきで、「わたしはこの三十四年間、勇気が大きな力になり、新しい仲間やクラスを築く可能性になることを、教室の中で見つめてきました。だから、それを伝えたいと願っています」と結んでいる。この本の出版は、そういう意味からも多くの子どもたちから大人にまで読まれていくことに大きな意義があると思う。