私はパソコン作業の持病から肩こりや目眩、耳鳴りなどで体調を崩し、市内の整骨院をたびたび訪れている。その日も治療を終えて会計をすませたが、後に続く患者はいなかったので、レジに立たれている先生に、「胡蝶蘭の花は先生が咲かせたのですか」と話しかけた。すると先生は、にこやかに待合室の方へ出てこられて、「育てているという人が持ってきてくれたのですよ」と鉢植えのそばまで来られた。
「私の家にも胡蝶蘭の鉢植えがあるんですが、花が咲かないものですから、何かコツがあったら教えて頂こうかと思って」という私の言葉に、
「液肥を三日おきぐらいにあげてるそうですよ。水も一日一回、鉢底からでるぐらいあげてるとか言ってました」と言い終えると、「先日、歩いているとクワガタが私の肩に止まったんですよ。捕まえて、ヨーカドーまで行ってこれを買ってきましたよ」と胡蝶蘭の鉢植えの隣に置かれている緑色のプラスチックの容器を指さして、
「クワガタは夜型だから今はおがくずの中に潜っていて姿は見えませんが、三ヶ月ぐらいしか生きないそうで、何とかメスを見つけないとね」と楽しそうに話された。
小さい頃に飼ったことがあって、懐かしくなって飼育容器まで買い込む熱意に、私は自分にも共通するものがあると胸打たれた。
先生とは治療をしてもらいながら花や野菜を育てる話などもたびたびする。今も待合室にはトマトの赤い実が熟している。