消えゆく同期入社の仲間

 1月25日(木曜日)。現在は、真夜中あたりにある。日常生活におけるごく身近なところで、食品には「賞味期限」と「消費期限」が表示されている。一方、これまた身近なところで、医薬品や医薬部外品には「使用期限」が表示されている。双方共に私は、スーパーなどでの買い物のおりや、はたまた調剤薬局でもらうときなど、あるいはドラッグストアで買うときには、これらの表示は気にしない。ところがまた双方共に私は、こんなときにはかなり、それぞれの期限表示を気に懸けている。すなわち食品の場合は、食べる前には賞味期限と消費期限を確かめている。薬品の場合は、これまた使用期限を確かめている。もちろん、「残り物には福がある」からではない。買い置きや、もらい置き、すなわち在庫があるからである。共に、「残り物には害がありそうで」、期限切れが気になるからである。だからと言ってケチな私は、とことんこれらの表示にこだわってはいない。もとより薬品ではしないけれど、食品の場合は期限切れであっても、ムシャムシャと食べている。それでもこれまでのところは、食中毒は免れている。
 閑話休題。きのう(1月24日・水曜日)には突然、同期入社のYさんから電話を戴いた。用件は、同期入社のひとりであるTさん(83歳)の訃報を知らせてくれるものだった。顧みれば同期入社の数は、大卒にかぎれば50数名だったように思う。電話のやり取りの中でYさんは、「みんな亡くなっていくよ。残っている人はもうあまりいないね。それらの中で元気な人は、渡部さんと前田さんのふたりくらいだね。前田さんは相変わらず元気でしょ?……」
「Yさんからは、早々に年賀状をもらってありがとう。ぼくは書かずじまいで、後出しになり、ごめんね。そう元気でもないけれど、今、卓球クラブの練習から帰ってきたばかりです。Yさんは、元気そうですね!」
「いやいや、前田さんも知ってのとおり、たくさんの病で苦しんでいますよ。前田さんは、まだ、卓球やっているの? 元気じゃないの……」
「ほんとに、渡部さんはとても元気です。渡部さんとはぼくの文章書きや、Yさんも知っていると思うけれど、渡部さんの郵便局回りなどをとおして、日々交流があります。いやぼくは、渡部さんにはすごく助けられています」
「前田さんはまだ文章を書いているの? 自分も教えてもらって以降、読んでいたけれど、途中からどこに書いているのかわからなくなり、もう書いてはいないんだなと思って、そのあとは読んでいないよ」
「そう、ありがとう。だけどもう、読まなくていいよ。とぎれとぎれになりかけているから……」
 渡部さん(埼玉県所沢市ご在住)は、「ひぐらしの記」や掲示板ではすでにお馴染みなので実名を用いた。いや、実名で書かずにはおれなかった。渡部さんはわが文章が途絶えるたびにパソコンメールで、こんな激励メッセージを送信してくださっている。「前田さん。このところ文章を見ないけど、どうかしているの? 毎朝、君の文章を読むは、自分の楽しみのひとつです」
 渡部さんは同期入社の誼(よしみ)をはるかに超えて、人間味いや人間の優しさがあふれて、わが崇敬するひとである。もちろんこのことは渡部さんの優しさの番外に位置しているけれど、渡部さんには「ひぐらしの記」にあっては、創刊号から発行されたばかりの直近の第89集にいたるまでのすべてを、有料購入にあずかっている。だからこれまた、渡部さんにかかわる、書かずにおれないことの一つである。
 現下の渡部さんは、首都圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)にある、大小すべての郵便局をまるで、しらみつぶしのごとくに訪ね歩かれている。驚くことなかれ! 渡部さんは、わが住宅地にある個人商店みたいなちっぽけな郵便局にさえすでに訪れ済である。そして現在は、ひときわ広域自治体である千葉県を日々、はるばる所沢市から回られている。Yさんが言う「元気な人は渡部さんと前田さんのふたり」とは、実際のところ私の場合は、渡部さんの足下にも及ばないものである。
 賞味期限や消費期限、いや命だから使用期限が妥当と思えるけれど、わが命はとうに使用期限切れにある。Yさんの誉め言葉にはうれしいと言うより私は、同期入社の仲間が消えゆくことぞっとした。こののちの私は、Yさんからの電話のことを伝えたくて、渡部さん御宅の固定電話の呼び鈴を鳴らした。ところがあいにく、呼び鈴は鳴りっぱなしのままで、肝心の渡部さんを呼び出してはくれなかった。たぶん渡部さんは、千葉県の九十九里浜海岸沿いの小さな郵便局回りをされていたのかもしれない。
 きのうの関東地方は、雪こそ降らずじまいだったけれど、身に沁みる寒さだった。わがふるさとのきのうの雪景色風景は、亡き長兄の後継者(長男)の妻から、三枚の写真付きでLINEで送られてきた。そして、とどめのふるさとの雪降り情景は、平洋子様から賜ったのである。
 この文章はとっくに使用期限が過ぎたわが命を惜しんでだらだらと書いた、エンドレスになりかけの長文である。さむいなあ……。日本列島のあちこち、やたらと雪が降っている。あしたは降雪予報の結末を書くことになるかもしれない。