私の庭

 高橋さんのおっしゃるとおり、一つ残った月下美人は開花せぬまま朝を迎えていた。このところの猛暑続きでは、緑の葉も黄色に変色して疲れ切った様子である。
 梅雨が明け、真夏の日差しが弱まった頃、もう一度か二度蕾に恵まれるかも知れない。
 今朝は、豆腐の本当の味を思いださせてくれる前田さんの「ひぐらしの記」だった。父は豆腐が好物だった。昔食べた豆腐の味が恋しくて、手作り豆腐を思いたった。道具作りからの挑戦だった。そして、家族総出で作った豆腐の味は、大豆のうま味が凝縮して良い香りがしていた。
「これこそ本当の豆腐の味だ」と出来たての豆腐をほおばりながらご満悦だった父の笑顔が思い出された。出来上がった豆腐は水などにつけず熱いうちにそのまま食べるのが旨いのだと父は言っていた。
 夜行列車に揺られて故郷に帰省すると、真っ先に叔父の家を目指した。叔父は父が豆腐好きなのを心得ていて、朝食に必ず豆腐屋から出来たての温かい豆腐を買い求めて用意してくれていた。そんな想い出に浸った今朝の「ひぐらしの記」だった。