夏風邪と逆らう風邪薬

 10月5日(土曜日)。起き出して来るや否や私は、傍らの窓ガラスを開けて、右腕を空中へ伸ばし、手の平を広くして振ってみた。雨粒が二つ当たった。私は直下の道路を凝視した。道路には隈なく落葉が散乱し、道路そして落葉共に、生々しく濡れている。就寝中は気づかなかったけれど、結構強い風雨の夜の証しである。しかし現在は、夜来の雨は今にも止みそうな小雨模様である。就寝中の私は、用無しの補聴器は両耳から外している。さらに、メガネや入れ歯も用無しのため、三つの器官補助器は外している。メガネや入れ歯はともかく、補聴器を外しているせいで、かなり強い雨・風だったようだが、知らぬが仏で寝入っていた。
 さて、私は自認する愚か者である。就寝前にあっては、まだ風邪薬を服んでいる。おとといまでの私は、「コルゲンコーワの鼻炎カプセル」を服んでいた。ところがこれが切れて、きのうの私は風邪薬を目当てに、買い物に出かけた。行き先は、普段のわが買い物の街「大船」(鎌倉市)である。いろんな買い物メモは後にして、私は真っ先に馴染みのドラッグストア「ダイコク」へ向かった。風邪薬と表記されているコーナーにしばし佇み、値段を比べかつ効きそうなものを目や手で漁った。入店前は迷うことなく、切れた従前の物をさっと手にするつもりだった。ところがその場にあって、長く迷ってしまった。挙句、購入を決め手にしてレジへ向かったのは、外箱に「エスタック総合感冒」と記された風邪薬だった。私は長年馴染んでいた風邪薬に、とうとうこの場で見切りをつけたのである。
 就寝前に、新たな風邪薬を服んだ。起きて、今なお効いたかどうかはわからない。効き目の確信には一つ、主訴あるいは副作用など構わず、こんな証しがある。確かなところではそれは、確かな副作用だが寝坊助を被るかどうかがある。ところが今朝の私は、寝坊助を被ることなくすんなりと起き出している。これを鑑みて現在の私は、効き目は副作用さえない風邪薬を買ってしまったのかと、案じるところにある。
 私は市販の風邪薬に頼り、夏風邪を拗(こじ)らせている。ゆえに現在の私は、後の祭りだが当住宅地にある掛かりの「S医院」へ、風邪の兆しのおりいち早く行くべきだったと自戒している。長引いている夏風邪に纏(まつ)わる、悔しいこれまでの顛末(てんまつ)である。これまでと区切りをつけた顛末ゆえに、本当の顛末はまだ先送りである。
 小雨は止んでまだ朝日は昇らないけれど、秋の空特有にのちには晴れるだろう。買い替えた風邪薬の著効、いやそれどころか効き目は、まったく感じていない。眠くはないけれど、鼻先がムズムズしている。