oosawa

ひぐらしの記

連載『少年』、六日目

のちに「少年」に育つ赤ちゃんの母親の名は、キラキラネームには程遠い、奇怪な「トマル」である。すなわち、前田吾一と前田トマルは、少年の父親と母親の名前である。産婆の児玉さんは、おおむね村中の赤ちゃんをひとり手にとりあげられている。児玉さんに産...
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連載『少年』、六日目

のちに「少年」に育つ赤ちゃんの母親の名は、キラキラネームには程遠い、奇怪な「トマル」である。すなわち、前田吾一と前田トマルは、少年の父親と母親の名前である。産婆の児玉さんは、おおむね村中の赤ちゃんをひとり手にとりあげられている。児玉さんに産...
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連載『少年』、五日目

母は道下の家で生まれた。明治三十七年二月、早田家の一男四女の二女として誕生している。母は井尻集落で生まれて、田中井手集落の前田吾一に嫁いだ。里と嫁ぎ先の間には高木や民家などはなく、ほかにも視界を遮るものは何もない。農家で生まれた母は、庭先か...
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連載『少年』、五日目

母は道下の家で生まれた。明治三十七年二月、早田家の一男四女の二女として誕生している。母は井尻集落で生まれて、田中井手集落の前田吾一に嫁いだ。里と嫁ぎ先の間には高木や民家などはなく、ほかにも視界を遮るものは何もない。農家で生まれた母は、庭先か...
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連載『少年』、四日目

少年の家のある所を村中では、「田中井手集落」と、呼んだ。田中井手集落には少年の家を含めて、四、五軒があるにすぎなかった。隣家とはくっついていたが、ほかは飛び飛びにあった。先に書いた、マキさんの家もその一つだった。きわめて小さな集落である。と...
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連載『少年』、四日目

少年の家のある所を村中では、「田中井手集落」と、呼んだ。田中井手集落には少年の家を含めて、四、五軒があるにすぎなかった。隣家とはくっついていたが、ほかは飛び飛びにあった。先に書いた、マキさんの家もその一つだった。きわめて小さな集落である。と...
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連載『少年』、三日目

少年の家から100メートルほどの先には、往還(県道)を挟んで同じ「田中井手集落」に住む、古田マキさんの家があった。マキさんは、少年には訳知らずの独り暮らしだった。庭の一角には裏山の地中から、冷たい山水が滾々と湧き出ていた。特に夏休みにあって...
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少年の家から100メートルほどの先には、往還(県道)を挟んで同じ「田中井手集落」に住む、古田マキさんの家があった。マキさんは、少年には訳知らずの独り暮らしだった。庭の一角には裏山の地中から、冷たい山水が滾々と湧き出ていた。特に夏休みにあって...
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連載『少年』、二日目

少年の家は、内田川の川岸に建っていた。川をじかに背負っていた。家は山背に建てば、四季折々の山の移ろいが楽しめる。そのぶん、山崩れが隣り合わせにある。川背に建てば、春先の水面の陽炎に目を細めて、瀬音に身を委ねることができる。だけど、洪水の恐怖...
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少年の家は、内田川の川岸に建っていた。川をじかに背負っていた。家は山背に建てば、四季折々の山の移ろいが楽しめる。そのぶん、山崩れが隣り合わせにある。川背に建てば、春先の水面の陽炎に目を細めて、瀬音に身を委ねることができる。だけど、洪水の恐怖...