作品の紹介-12 木の葉天目皿

作品の紹介-12

木の葉天目皿
直径19cm×高さ3cm 坂本宗弘 作

Temmoku dish, decorated with 5 natural leaf patterns diameter 19cm ,height 3cm by Soukou Sakamoto Such Temmoku as this photograph is called “Konoha Temmoku” in Japan. “Konoha” means leaf. 

木の葉天目
 天目釉を施釉した皿の上に、木の葉を置いて焼成すると、黒い天目釉の地の上に、 木の葉の模様が浮かび出ることがあります。こういう作品を木の葉天目の作品 (この場合は木の葉天目皿ですが)と呼んでいます。
 木の葉天目の葉の部分を良く見ると、紺や緑、黄色、といった色が見えます。 黄色はともかく、この紺や緑の色は、鉄釉の色としてはあまり見かけないので、 その原因は木の葉に含まれる微量の着色金属の発色である、と考えるとすれば、 それは恐らく、誤りでしょう。
鉄の含有率の高い鉄釉というと、黒色の釉や、赤色系の結晶の出た釉を連想しがち ですが、実は、着色金属として鉄のみを含む釉で、部分的に、こういう紺や緑の 発色をする釉が存在するのです。 天目釉上に木の葉を置いて焼成すると、その釉が木の葉の形に従って合成される ので、木の葉天目が出現すると思われます。
その主たる働きをするのは木の葉の珪酸成分です。木の葉天目に使う葉として、椋や 欅のような珪酸分が多い葉がよいということは、焼き物を作る人の間では今では、 かなり広く知られています。珪酸分が多い葉は、焼成に強く、葉の形をとどめやすい というのが、その大きな理由のひとつですが、地の釉に熔けこんだ葉の成分が、 周りとは色の異なる鉄釉を合成するという、もうひとつの理由はあまり意識されては いないようです。
 さて、木の葉天目が出現する原理は、前述のようですが、実際に木の葉天目の 作品を作るとなると、そう簡単ではありません。その理由のひとつに、木の葉天目に 使う木の葉の収集が、案外に難しいことが挙げられます。若い葉を木からむしり取って 来る方法は、全くだめで、十分に稔りきって、木から自然に落葉した葉を拾わなければ なりません。そのためには、木の落葉の時期に良く気を付けている必要があります。 大量の葉が一斉に落ちるのは三日くらいのあいだです。 天気が良くて、時々微風が吹く のが最も集めやすい条件なのですが、三日も続けて、こういう好条件に恵まれることは、 めったにありません。この時期は、木枯らしが頻繁に吹くので、ほとんどの場合、 三日のうちどこかで木枯らしが吹いてその年の木の葉集めは終わりとなってしまいます。
 ところで、同じ木の木の葉でも、年によって木の葉天目に適する葉がたくさん取れる年と、 そうでない年があるのをご存知でしょうか。これはと目星を付けた木の落葉を待ちに待って、 落ちた葉の中から良さそうな葉を選んで、二千から三千枚も集めても、葉を乾かしてみると、 貧弱な葉ばかりで、使い物になる葉は十枚がやっとで、その十枚もそれほど良くない ということも、よくあるのです。
 このように自然の気まぐれに翻弄される面があり、作品の歩留まりもあまり良くない 木の葉天目の作品制作ですが、成功した作品の木の葉の模様には、自然の造形が持つ 何とも言われない説得力があって、制作者をして、また新たな木の葉天目の作品を 作らせようと魅入る力があります。やはり、今年の秋も、落葉が気にかかって 落ち着かない日々が続くことになりそうです。