作品の紹介-10 油滴天目茶碗

作品の紹介-10

油滴天目茶碗
高さ6.5cm×直径12.5cm
坂本宗弘 作

Temmoku tea bowl height 6.5cm, diameter 12.5cm by Sousei Sakamoto The glaze of this tea bowl is known as “Yuteki Temmoku” in Japan. “Yuteki” means oil spot.

油滴天目
 この写真の作品の釉のような、黒い天目釉の地に銀色の斑紋が出た釉は、水面に 油のしずくが浮かぶ様を思わせるところから、油滴天目釉と呼ばれています。 制御が難しい窯しか無かった時代には、油滴天目の作品を作ることは、非常に 難しいとされていました。しかし、今では、油滴天目に関する科学的な研究結果 (例えば、沢村滋郎氏の研究結果)も、広く明らかにされていますし、火度や雰囲気 を制御し易い窯もあるので、油滴斑を出すだけならば、それほど難しくはありません。 しかし、それは、出発点にすぎません。
 黒い天目釉の地の色の深さと光沢、銀斑の輝きの強さ、色、散り具合、流れ具合、 釉の表面から反射する光の色と、それぞれを良くしようとすると、互いに相反する ことがある奥の深い課題を持っているのが、この油滴天目なのです。
 日本には、中国で南宋時代に作られたとされる、油滴天目の美しい作品があります。 これらの中の、あるものは、その課題に対するひとつの答えを出しているかのよう にも見えます。何年か前、東京の池袋の東武美術館で宋磁展があった時に、国宝と 重文の油滴天目茶碗が展示されていましたが、その美しさは、忘れることができません。 それらの油滴天目茶碗は、絶妙に散り流れている銀斑を浮かべた、気持ちの良い 黒色の釉がかかっていて、青色の反射光を放っていました。少し、青みの強い照明で、 釉の表面からの青い反射光が強調されているようでしたが、実に美しいものでした。
 こういう古典の持つ美しさを追求する姿勢を、単なる古典の模倣に過ぎぬと批評する 考えもあるようですが、美しいものに魅せられて、それを自分の手で作り出したい という欲求は、ごく自然なものであるように思われます。そして、その実現に向かって 努力する過程を通してこそ、新しい美しさを持った作品も生まれるのではないかと 思っています。